社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
***
それは四月。新しい生活に希望と緊張を携えて社会人の第一歩を踏み出した春。
入社してすぐに行われる社内研修。オリエンテーションから始まり一般研修にいたっては二ヶ月研修センターでみっちり行われる。ここでしっかりと、学生から社会人へとなるために“日芝マインド”なるものをたたきこまれる。
そこで隣になったのが成瀬だった。
我が社の場合、営業と専門職と事務の部門別に採用しているのでオリエンテーションが終われば、あとは部門別に細やかな研修がなされる。
営業部門での研修では周りは男性が圧倒的に多い。私の入社年度には営業職の女性は二割にも届いてなかったと記憶している。
私が割り振られたグループは男性ばかり。研修だって仕事だから男女の差など関係ないのだけれど、なかなか輪に入りづらい思いをしていた私に成瀬が声をかけてきたのだ。
しかもそれは講義中で、集中していた私の腕をボールペンでつつきながら尋ねてきた。
「その前髪、自分で切ってんの?」
第一声はこれだ。今でも覚えている。当時から切りそろえた私の前髪を指さして聞いてきた。
「そうですけど……」
講師の話を真剣に聞いていた私は迷惑だと思いながらも、ついつい成瀬の言葉に耳を傾けてしまう。
「どうやったらそんなに、まっすぐ切れるんだ?」
前を向く私の腕を、またボールペンでつついてくる。
「ちょっと、やめてよ。それ、今する話じゃないでしょ?」
講師から目を付けられないように、小声で話す。