社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「ありがとう。貴和子さんよろしくね」

バタンと扉が閉まり、成瀬のアパートの場所を告げると走り出した。後ろを振り向いてみると、貴和子さんと若林くんがふたり並んでこちらに手を振っているのが見えたので、振り返してから前を向いた。

成瀬は後ろにもたれて、じっと目をつむっている。さっきまでのはしゃぎ様が嘘のようだ。

すると交差点で曲がった拍子に、彼の体が傾き私の肩に顔が乗っかった。

「ちょっと……」

驚いて押し返そうとしたけれど、結構重い。しかも成瀬本人はとっても気持ちよさそうに寝息をたてていた。

アルコールの匂いが鼻をかすめる。お酒のせいなのか彼と触れる部分がすごく熱く感じる。

時々、むにゃむにゃと口を動かす姿が子供みたいだ。

んな近くでじっくり顔を見るのは初めてかもしれない。私は押し返すことをやめて成瀬の顔をじっと見つめた。

面倒かけられてるんだから、これくらいいいよね。

幸せそうに眠る成瀬の鼻をつまむと「ふがっ」っと声を出した。

「ふふっ」

成瀬のアパートに着くまでの短い間だったけれど、私はひとり彼の色々変わる表情をみつめてクスクスと笑った。

タクシーの運転手さんがあきれた様子でバックミラーで私たちをみていたのにも気が付かないほど、私は成瀬に夢中だった。
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