社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
いや、成瀬だけじゃない。深沢部長だってちゃんと声をかけてくれていた。

「こんなことくらいで、負けたくない」

ふいに、口をついて言葉が溢れる。

「あぁ、そうだ。こんなことくらいだ」

自分のやり方で、お客様も上司も納得させたい。

「俺がちゃんと見ててやるから、頑張れ」

成瀬の指先が、優しく私の頬の涙を拭ってくれた。

「うん、ありがとう」

私は、彼の言葉に答えて今できる精一杯の笑顔を見せた。そんな私を見て成瀬も同じように笑顔になる。

「しかし……ひどい顔だな」

白い歯を思いっきり見せて、意地悪な笑みを浮かべた。いつもの成瀬だ。

さっきまで、すごく感動していたのに……でもこれも彼なりの慰め方だ。こうやっていつも通りにしてくれていた方が、私も普通にしやすい。

「そんな言い方しなくてもいいのに! もう、化粧直して帰る」

「あぁ、そうしろ。そのまま電車に乗るなんて公害以外の何物でもないしな」

「ひどい! ……でもありがとう。成瀬がいないと、こんなふうにすぐに前向きになれなかったと思う」

急に真面目にお礼を言った私を成瀬が気味悪がってみせる。

「なんだよ。お前が素直だと怖えーよ。今から雨が降るんじゃないか?」

「失礼な。私はいつだって素直なのに」

嘘……いつだって意地ばっかりはってた。特に成瀬の前では。でも今日だけは素直にお礼を言いたい。やっぱり私が好きになった成瀬は素敵だと改めて思ったから。

「まぁ、たまにはそういうのもいいかもな。ほら、行くぞ」

先に扉に向かって歩き出した成瀬の後をついて行く。ちらっと見えた成瀬の顔が照れくさそうなのは気のせいかな?

私は成瀬の背中を追いかけて、屋上を後にした。
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