社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「そうか? 大丈夫か?」

「ん? 大丈夫だって。心配しないで」

せっかく楽しく食事をしてるのに、気の重くなる話はしたくなかった。

「そういえば、この間貴和子さんと、朔ちゃんとね……」

私が話題を変えると、成瀬もそれ以上は何も言わなかった。

結局そのあと、0時をすぎるまでふたりで飲んだ。もちろん終電もなくふたりでほろ酔い気分でタクシーに乗りこんだ。

「ふたり同じ方向でよかったな」

「それ、新人研修の時も言ってたし」

「そうだったか?」

「そうだって」

「忘れた。そんな昔の話」

“忘れた”か……私は今もちゃんと覚えているのにな。

なにかを期待するのはやめると決めたばかりなのに、なかなかうまくいかない。小さなため息をついて、窓の外に目をやり流れていく景色を眺めていた。

お互い話もせず、どれくらい時間がたったころだろうか。ふと置いてあった手に成瀬の手が触れた。すぐに離れると思っていたのに、重なった手はそのままだ。

意識しているのは自分だけかもしれない。私は変に思われないようにゆっくりと手を成瀬の手の下から抜いた。

ほっとしたのも束の間。また同じように成瀬の手が私の手に重なる。

これは偶然じゃない。そう思うと痛いくらい心臓の鼓動が激しくなる。

「お前の手、冷たいな」

そう言った成瀬は、乗せていただけの手に力をこめてギュッと私の手を包んだ。

とたんに、ドクドクと心臓が大きな音をたてて暴れ始めた。
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