社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
それから、デスクに戻っても全く集中出来ずに早めに仕事を切り上げた。明日のぶんの仕事の準備はできているし、こういう時は早く帰るのがベストだ。

私はパソコンの電源を切って、立ち上がった。

「お先に失礼します」

声をかけた私に、周りから「お疲れ様です」という声が返って来たけれど、みんなパソコンの画面をみつめたままだ。

私は、バッグを持つと時計を確認した。十八時四十分——今ならまだ駅前のデパ地下のお弁当が買える時間だ。

こういう時は美味しいものを食べるに限る。

本社ビルの周りは、商業施設も多い。駅の周りには駅地下や、デパートなどショッピングや食事には事欠かない。

楽しい予定を立てて、ほんのちょっと気持ちが浮かぶ。足早にエレベーターへと向かった。

しかし、前からポケットに手を突っ込んだまま歩いてくる男を見てせっかく浮上した気持ちが再び沈んだ。

成瀬だ。今日はこの顔見たくなかったな……。

「お疲れ、今日は早いんだな」

「ちょっとね、お疲れ様」

「おい、ちょっと待てよ。ほんと、愛想ないな。朔乃(さくの)ちゃん見習えよ」

成瀬が朔乃ちゃんと呼んだのは成瀬と同じ課で営業事務を担当している河原(かわはら)朔乃ちゃんだ。入社三年目だけど仕事もできるし素直で明るい。私も普段から仲良くしているから成瀬の言葉はもっともだと思う。

だけど——。

成瀬の口からは聞きたくない。
< 8 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop