社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
「どうせ、私は可愛くないですよ……」
さっきのトイレでの合田さんの発言が頭をよぎりつい口にしてしまう。
顔をあげて、目の前の男の顔を見る。百七十八センチの身長にすらっと伸びた足。本人はあと、二センチ欲しかったといつもくやしがっているが、百五十センチ代の私から見れば十分長身だと思う。
短く切った髪を適度に遊ばせているけれど、決してチャラくは見えない。それはきっと人懐っこい笑顔のせいだ。
お客さんにも……もちろん女子社員にも人気がある。
意志の強そうな眉と、笑うと目尻に皺ができるのも彼の明るい雰囲気を作り出していた。
「なんだよ、元気ねーな。いつもだったらギャーギャーうるさいのに。またタヌキにやられたのか」
「それも、あるけど……それだけじゃない」
歩き出した私の後を成瀬が追ってくる。
「なんだよ、この俺様に話してみろ」
「いいってば、話したところでどうにもならないし」
つっけんどんに返すけれど、成瀬はしつこく追いかけてくる。
「話せばすっきりするだろう」
タヌキのことも、合田さんのことも成瀬に話したところでどうしようもない。
「もう結構です! しつこい」
私はエレベーターに乗り込むと、まだついてこようとしている成瀬を見て【閉】ボタンを連打して中に入ってくるのを阻止する。
「痛って! ……っ」
成瀬が扉に挟まって、顔を歪ませている。
「ちゃんと、前見てないからよ。じゃあね」
私は成瀬が扉から一歩引いたのを見て、一度開いた扉をもう一度閉じた。
「ちょっと、待て」
挟まれた肩をさすりながら、声を張り上げていたが扉は閉まる。そしてゆっくりと下へと向かい動きだした。