ドラマ好きの何が悪い
「まだもう少し時間あるよね?ちょっと行ってくる!」

ハルカはそう言うと、いつもの化粧ポーチを持って化粧室へ小走りに向かった。

化粧直ししなくても十分かわいいのにね。

時計を見ると、さっきのメールから5分ほど経っていた。

あと10分くらいで到着すると思う。

そういえば、カイトと飲むのも久しぶりかもしれない。

顔はしょっちゅう合わせてるけど、ほぼわが家か職場だもんね。

20代の頃は何人かのカイト含む酒飲み仲間と毎晩のように繰り出してたなぁ。

ワインを揺らしながら、当時を懐かしく思い出す。

あの頃は若かった。

傷つくのも怖くなかったし、未来に希望満ちあふれてたよな。

皆で一緒に笑って、泣いて、お酒酌み交わして。

時々誰かを好きになって、振られて。

だけど楽しかった。

今ももちろん楽しいけど、なんか違う。

楽しさの裏に、不安や恐れがいつもコバンザメのようにくっついて離れない。

かき消そうとしても、それはいつも忘れた頃にふとやってくる。

まだ独身が周りにも何人かいるから、なんとか楽しくやってるけど、最後の一人になった時の自分は怖くて想像もできない。

追加注文したかつおのたたきが運ばれてきた。

赤黒いつるんとした身が脂で潤んでる。

食べ頃。

人間にもきっと旬というのがあるはずで、その旬を逃してしまってやしないか、そこがポイントだと思う。

「はぁー間に合った。まだ来てないよね。」

ふわっとローズの香りが鼻をかすめた。

ハルカの香り。

「うん、まだだよ。かつおのたたきは今来たけどね。」

「うわ、おいしそう!でも、せっかくだから立花さん待ってそれからお箸つけようか。」

なんてしおらしいこと。

まさにつまもうとしていた私はそのまま箸を置いた。

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