社内恋愛症候群~小悪魔な後輩君に翻弄されて~
強く握られた手に引かれて、ホテルの部屋のドアをくぐった。
引き返せない……そんなことが頭をよぎり、喉がごくりと音を立てた。
気がつけば私は抵抗することなく、彼とともにシティホテルに来ていた。
手続きする間もどこか夢と現実の間を行き来しているみたいな不思議な感覚にとらわれていた。
部屋に着くなり、後ろから若林くんの逞しい腕が回されて、ギュッと抱きしめられた。
手に持っていたバッグが床へと落ちる音を耳にしたけれど、その後私の耳には、若林くんの声しか聞こえなくなってしまう。
「こっち向いてください」
甘く掠れた声を聞いた瞬間、体内を巡る血液の温度が一気に上昇する。
ゆっくりと、後ろを振り向いて、彼と向き合う。艶めいた男の目をした若林くんを見て、鼓動が速くなる。
しかしその一方で、この先に進んでいいのか迷う自分もいた。
しかし、目ざとい彼は、私の目に戸惑いの色が宿ったのを見逃さない。
すぐに若林くんが私の唇をふさいで、なにも考えられないようにしてしまう。
唇が離れて、お互い見つめ合う。
「逃がしませんから……貴和子さん」
そう言った彼は、私の髪に両手を差し入れて、上を向かせた。
逃げられるなんて思ってない。
こんな風に自分を欲しがってくれている相手から、逃げられるはずがない。
目の前にいるのが、年下だとか後輩だとか……そういうことはどうでもよくなっていた。
彼の腕に抱かれたい。
今の私の素直な気持ちだった。
それを彼に知らしめるように、私はつま先立ちをして、自分から彼に唇を寄せた。