やさしい先輩の、意地悪な言葉
変なことを言ってるのはわかってた。
でも、神崎さんは私の言葉をなにひとつ否定しなくて。
否定しないどころか。


「わかるよ」

「え?」

「初めて付き合った人って、特別だよね」

「……神崎さんも、ですか?」

「うん」

「……神崎さんが初めて付き合った人って、どんな人ですか?」

私がそう聞くと、神崎さんはどこか懐かしそうな顔で小さく笑いながら、私の質問に答えてくれる。


「高校一年生の時にね。三年生だった生徒会の先輩が好きで、付き合ってたんだ」

「そうなんですか」

「でも、その彼女が県外の大学への進学が決まって、遠距離恋愛になったんだ。
遠距離恋愛になってからすぐ、彼女からは『なかなか会えなくなるし、別れよう』って電話で言われたんだけど、俺は別れたくなくて。何度も何度もみっともなく食い下がったけど、結局その電話の一ヶ月後にははっきりフラれた」

今となってはいい思い出かなって感じだけどね、と神崎さんは笑いながら言った。
でも……その時の神崎さんは、本当に辛かっただろうな。


「なんだか……神崎さんにもそういう時期があったんですね」

「え?」

「恋愛でうまくいかない、みたいな」

「全然あるよ」

「そう、ですか? 仕事も恋愛もスマートな方に見えますが……」

「ありがと。でも実際はそんなことないよ。初めて付き合ったその彼女にフラれた時はちょっと泣いたし、仕事だって、今でこそ慣れてきたけど、新人の頃はもちろんミスもしたし」
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