強気な彼から逃げられません
最寄駅が同じだと聞かされた私は、その瞬間に逆らう力が抜けてしまった。
彼が掴んだままの手を振り払う事もせずに、ただただその力に従って足をすすめるだけ。
「電車だと20分はかかるけど、タクシーならすぐだろ?」
「……まあ、そうだけど」
「ちゃんと家の前まで送るから安心しろ」
ちらりと私を見た彼の瞳はいたずらめいていて、心臓がとくんと鳴った。
この状態は現実ばなれしていて、夢でも見ているようだ。
けれど、強い力に引っ張られて、駅前のロータリーで待っているタクシーに近づくにつれて、私の気持ちも正気に戻ってきた。
最寄駅が同じだからと言って、私はどうしてタクシーに乗せられなきゃいけないんだろう。
初対面の私の手をこうも強い力で掴んで、思うがままに連れ回すなんて、犯罪じゃないの?
そう気付くと、一気に目が覚めて、引きずられている足を踏ん張った。
「やっぱりおかしいよ。 知らない人と一緒にタクシーに乗るなんて、絶対変だもん。 私は電車で帰る」
「うるさい。みんな待ってるんだ、黙ってついて来い。 文句があるなら家に着いてから存分に聞いてやる」
一瞬だけ私に向けられた顔は平然としていて、私の言葉なんか意に介さない。
「とにかく今はタクシーに乗れ。後で後悔するようなことは何もしないし、二人きりで乗るわけじゃない」
「な、何で……」
不可解な気持ちと共に、私はそのままタクシーに押し込まれた。