強気な彼から逃げられません
「ほら、奥に行けよ」
男性は私を車に押し込んで、自分も隣に乗り込んできた。
「あ、あの……」
突然後部座席に転がり込んだ私を見て、既に乗り込んでいたらしい綺麗な女の子は、目を見開いて驚いた。
そりゃそうでしょう。
当人の私ですら、いったいどうしてこんな状況になっているのかわからないんだから。
「あの、怜さん? この女性は一体……」
私と、私の隣に乗り込んできた強引な男を交互に見遣りながら、女性は心もとなげに問いかけた。
きっと表情もなくその場にいる私と、『れいさん』というらしい隣の男性を何度も見ている。
私も彼女と同じように、隣の男の言葉を待った。
すると、助手席に座っていた男性が
「じゃ、運転手さん、行ってもらえますか?」
と言った途端、タクシーは動き出した。
「あー、電車が……」
遠くなる駅を見ながら小さく呟く私の耳に入ってきたのは。
「俺がずっと見ていた女」
隣の男が呟いた言葉だった。
タクシーの後部座席で並んで座る私達。
助手席にも見知らぬ男性。
……窓の向こうを流れる景色は確かに見覚えがあって、それだけが唯一の安心材料だった。
けれど、私の心の中はクエスチョンマークで溢れていて、これは夢かもしれない、いや、そうに違いないと自分に言い聞かせていた。