強気な彼から逃げられません
その日の終業後、ひとりで過ごさなければいけない今日は、どこに帰ろうかと、憂鬱な気分で着替えていた。
仕事を終えた女の子たちでごった返す更衣室には、化粧品やら香水の香りが漂っていて、そんな香りが何故か好きな私は少し気分が浮上する。
……はずなのに、やっぱり、今日は無理だ。
慣れというのは恐ろしいもので、ほんの数日を怜さんと過ごしただけなのに、見事に私の心も体も怜さんに依存してしまっていた。
付き合い始めてすぐの会えない時間は、何度経験しても寂しいけれど、怜さんに対しての寂しさは、単なる寂しさだ。
距離が離れてしまう寂しさを感じるだけで、気持ちは決して離れていないと毎晩体に教えこまれた成果が実ったのか。
これまでだったら距離以外にも寂しさや不安を山ほど抱えていたけれど、今はただただ寂しい。
それだけだ。
離れていても不安が少ないのはきっと、私への想いを私以上に注いでくれる怜さんのおかげかもしれない。
不安のない、単なる寂しさは、私が成長している事によるものなのか、怜さんの人間性によるものなのか。
……できれば、私が成長していればいいんだけど。
「それは、まだまだかな」
着替えを終えて苦笑しつつ、カバンを手にした時。
「飲みに行かない?」
そう言って私の顔を覗き込んだのは、同期の美絵だった。
くくっと笑いながら立っていた。
「何暗い顔してるのよ。男前の恋人に、早速振られた?」
「ふ、振られてないよ」
「その割には暗い顔してる。振られていないなら喧嘩?」
「喧嘩もしていないし、うまくいってる」
私を見ながらにやりと笑って、美絵は手にしていたスマホの画面を私に見せた。
どこかの居酒屋のホームページのようで、そのきれいな内装が映されている。
「最近オープンしたこのお店に今から何人かで行くけど芹花も一緒にどう? オープン記念の優待チケットもあるから、お得だよ」
「え、どうしよう。お酒が飲みたい気分じゃないんだけど……」
「どうせ、そんな暗い顔してるんだから彼氏と会うわけでもないんでしょ? お酒でも飲んでぱーっとしようよ。ね?」
さ、行くよ、とでもいうように私の腕を掴んで歩き出す美絵の勢いに逆らう事もできず。
そして、心のどこかでは、一人ぼっちの部屋に帰らなくてもいいと気持ちも緩み。
明るく笑う美絵に連れられて、私は飲みにいった。