強気な彼から逃げられません
「え、明日ですか? ……わかりました、朝いちでそっちに行きますよ。 野崎さんは先方に直接行くんですよね。
あ、今日所長が新しい仕事を野崎さんに回すって張り切って……は? 怜に回せって、これ以上あいつの仕事増やしてどうするんですか」
くくっと笑いながら、ちらりと私を見る愁さんに、とくん、と鼓動は弾む。
怜さんという名前を聞くだけで、息がとまりそうになるなんて重症だ。
「あ、今、彩実も一緒ですか? ついでで申し訳ないんですけど、明後日の打ち合わせは来週に延びたんで、そっちの仕事を急いで終わらせなくてもいいって伝えてくれます?
はい、怜も一緒の予定だった打ち合わせで、先方の都合が合わず……え? 怜はとっとと帰る気でいる?
あー、怜が帰りたがってる原因が今目の前に……いや、いいです。はい、はい。じゃ、明日、よろしくお願いします。失礼します」
愁さんはふうっと息をつくと、意味ありげな笑顔を浮かべた。
「悪い悪い。野崎さんの電話に出ないと、あとで何を言われるかわからないからね。あ、芹花ちゃんの怜、予定通りに帰ってくるってさ。良かったな」
からかうような声に、周りもくすりと笑う。
野崎さんという先輩弁護士さんの名前にも聞き覚えがあった。
怜さんは今回の出張で野崎さんのサポートに就くこととなり、やり手の弁護士の仕事ぶりを勉強させてもらうと言って出かけて行った。
野崎さんは、世間でも知られた有能な弁護士だから、弁護士には縁遠い私でも何となく知っていた。