その顔が見れるのは私だけ
今日は早めに目が覚めたからメイクも髪もいい感じかもしれない。今日もヒロさん電車に乗ってるといいな。駅でついウキウキしながら電車を待ってしまう。

「電車が参ります。ご注意ください~」

いつもの電車に乗り込んだら…

今日も彼がいた。

今日は次のブックトークコーナーで紹介するのかな?昨日の絵本とは違う本を読んでいる。

話しかけてみたいけど、いきなり話しかけたら変な人だよね…。

キィーーーーッ

電車が駅に停車した勢いで立ってる人の塊が揺れる

バサバサッと音が聞こえたと思ったらヒロさんが本を落としていた。
ちょうど私の足元に落ちてきていた。
屈んで拾っていると

『すみません、』

近くでヒロさんの声が聞こえた。
やっぱりステキな声だなぁ、とこんなときまで思ってしまうなんて、私ヤバイかもしれない。

『はい、どうぞ』

『ありがとうございます。』

そう言ってニッコリ笑って受け取ってくれたヒロさんと今日が初めての会話だった。
本当はここから世間話とか始められたらいいんだけど、あいにく私はそんな高スペックなコミュニケーション能力は持っていないし、あと一駅で会社の最寄り駅に着いてしまう。


少しだけ後ろ髪を引かれる思いで今日は電車を降りていつも通りコンビニに寄っていつも通り出勤した代わり映えしない朝だった。いや、初めて話せたし大進歩だわ。なーんて、初恋の中学生みたい…。
< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop