現実世界で捕まえて
ジッと顔を見ていると
「ストーカーじゃありません。一発グーで殴らせてもらってもよろしいでしょうか?」
思いっきり嫌味ったらしく言われてしまった。
私は怖くて頭をブンブン横に振ってしまう。
キレやすいのかイケメン。
怒った顔が怖いわ。
「あなたはその時、本当は亡くなっていたのです」
「はぁ?」
「少年を抱き上げた時はもう目の前に大型トラックだったのでしょう。どれだけのスピードで歩道に戻ったと思います?ボルトでも無理でしょう。その時の事を覚えてますか?」
覚えて……ない。
「あの時は夢中だったから」
自分でもかなり無茶した。
私も考え事しながら小走りで駅に向かっていて、ぶつかった小学生が車道に出たから反射的に身体が動いて小学生を抱き上げて……からの記憶があまりなく……気付けば助け上げて歩道の上だった。
「あの時本当は亡くなってるんです。だから僕があなたの魂を天国に持って行く使命を受けてここに来ました」
「うそでしょ。だって私は生きてるよ」
「それは仮の姿」
「ちゃんと生きてるもの」
「だから仮って言ってるでしょう。頭が悪いですね」
ドSかコイツ。
それはないよ。私はちゃんと生きているもの。死んでないもの。
今日だってちゃんと仕事に行ったもの。
じわーっと涙がボロボロ出てしまう。
男は私の涙を見てボックスティッシュを取り出し渡してくれた。
「このティッシュ硬い。安いの使ってますね」
いちいちカチンとくるヤツだな。