現実世界で捕まえて
「これが本当の今朝の光景です」
男が軽く手を上げると部屋の照明が消え、目の前の缶ビールが映写機に変化した。
「スゴっ」
「ちゃんと見て下さい」
隣の寝室に続く白いカーテンがスクリーンに変化し、物語を映し出す。
いつもの風景。
商店街を急ぎ足で歩く私。
客観的に見ると姿勢が悪いわ。
そして足が太い。
反対側からランドセルを背負った小さな男の子が歩いてきた。登校しながらゲームしちゃダメじゃん。上級生に没収されるぞ。
「この子は幼稚園から塾に通い、名門私立小学校を受験して合格したけれど、親の期待が最近つらくてゲームに逃げてしまってる状況です」
切ない世の中だなぁ。
スクリーンを見ていると男の子が私にぶつかり、ゲーム機を追って車道に出て、それを追って私も車道に出て男の子を抱えると目の前にトラックがやってきて、私は慌てて男の子を歩道に放り投げ男の子は助かり、私は大型トラックにはねられて反対車線にぶっ飛んで今度は軽自動車に突っ込まれていた。
かわいそうな私。
ラストは軽自動車に負けたのね。
画面は上からの私のアップになる。
私の身体は血だらけで
腕と足がありえない方向に曲がっていて
一番許悲しかったのは
顔が汚い……鼻血出てるし……白目むいてるし。
顔をアップで撮らないで下さい。
私の周りに人が沢山やってくる。
叫んでる人とか励ましてくれる人とか
震える声で救急車を呼んでくれる人がいる。
皆さんありがとう。
死んでしまったのね私。
またウルウルしてティッシュで鼻をかむ。
「監修は僕がやりました」
満足した声で男はそう言い、また自動で電気を点ける。
涙なくしては見れない名作だった……って言って欲しいのだろうか。
絶対言うもんか。