桜道【実話】
『………』


ナオの言葉は無かった。



《グスン…グスン…グスン》



あたしは

ナオの顔を見るのが怖い。



車は

ずっと同じスピードで

走り続ける。



【ナオ…何か言って…】



あたしは心の中で叫ぶ。



無言のままのナオ。



【嫌だょ…何か言ってよ

なんで何も言ってくれな

いの…グスン】



あたしは泣きながら

ナオをチラッと見た。



【ビクン!!】



ナオの顔は

恐ろしいほど怖かった。



車は街灯も何もない

真っ暗な場所で

静かに止まった。



【ここ…どこ…ビクビク】



ガバッ!!!



【ナオ??!!】



ナオが

あたしを抱き締める。



『タバサ…』


《うん…?》



ナオが

助手席のシートを倒して

あたしを抱き締める。



『タバサ…ごめんな…』



ナオの声が震えている。



《ナオ…グスン…グスン》



あたしの涙は止まらない。



『そばに居てやれなかっ

たな…ぅぅっ…ごめんな

ごめんな…タバサ…』



ナオの涙が

あたしの頬に落ちる。



《ウン…ウン…グスン…ナオ

赤ちゃん…死ん…じゃっ

た…グスッ…ナオごめんね

ごめんね…ぅわーん!》




ふたりで

抱き合って

泣いた――――




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