Secret×Secret
「もー、やだ‼」
今日何度目かのその言葉を吐き、一気に飲み干したハイボールのグラスをガタンとテーブルに置く。

「もうわかったから。忘れなよ、詩乃。」
斜め隣に座る唯が可愛いカクテルグラスをさりげなく避難させてそう答えた。

いつものバーにいつもの二人でいつものお酒を飲む。
折角の土曜日。
本当なら私は今日、彼氏ができたの!とでも惚気ながら可愛いカクテルに頬を染める予定だった。
なのに!

「だって!今回は大丈夫だと思ったんだもん。コンパで出会って、3回もデートして、順調に段階踏んで、彼女になってって言われたもん!なのにホテルまで言ってから結婚してる事言ってなかったっけ?なんて~。」

最後はもう、半分机に顔をうずめながら叫びにならない声で言った私はものすごく冷たい視線を感じる。

「あと半年で30になる女がもんっていっても可愛くないよ・・・。」

あきれたようにそう言って唯は少し残ったカクテルをぐいっと飲み干した。

島崎詩乃。29歳と6か月。
大手出版社の総務部秘書課の8年目。
秘書課6人の中で課長を抜いて5人。
去年とうとう最年長になった。

秘書と言ってもドラマや漫画のような役員についてまわるばかりじゃなく会社の何でも屋。
勿論、上役について取引先に行ったりもするし会社内で起こったトラブルに動いたり意外とハードな仕事だったりするから大体うちに配属されるとエリートと社内恋愛して25、6歳で寿退社のパターンが多い。
私の2歳上の先輩は結婚しても続けていたけれど妊娠がわかり、去年退社して私が最年長になってしまった。
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