Polaris

「……裏口から帰ろう」

既に泣きそうに潤んでいる瞳。瞼をぎゅっと強く閉じた後、私は裏口に向かって歩き出した。

歩きながら携帯電話をカバンから取り出し、メールをチェックする。すると、昨日受信したメールの返事をまだしていなかった事に気がついた。


《じゃあ、もっと当てちゃおうか? 化粧は殆どしてなくて、肌は白い。可愛いというよりは、綺麗系でしょ? ……って、これ当たってたら凄いよね(笑)》


私は一度だけ「はぁ」と溜息を吐いて、携帯を再びカバンの中に放った。


───そして、それから数日が経った。

だけど、まだイツキには返事を返していない。特に大きな理由があるわけじゃない。少し、メールを返す気分にならなかった。それだけ。


「ねぇ、今井さん。この書籍の注文の在庫確認、ちゃんとしてくれた?」

「えっとぉ、確かそれ、分かんなくてしてなくてー……」


今井さんや芹川さんとは、相変わらずこんな感じで、毎日のように注意をしては、悪く言われてしまっている。


「分からないなら、その時にちゃんと聞いてくれないと困るの。だから、今度から気をつけてね」

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