俺様黒王子とニセ恋!?契約
それを聞いて、私は思わず苦笑した。
声を掛けるだけで逃げられていたら、篤樹でも恋を始めるのは一苦労だろう。


「けど……そっか。篤樹は会社の後輩の君を、強く育てたかったのかな。もしそうなら、アイツ、もしかして……」


静川先輩は、まるで独り言のように自問自答しながら、声をボソボソと小さくしていく。


「え?」


聞き取り辛くて聞き返す私に、ハッとしたようにまっすぐ目を向ける。
そして、今日会って初めて、ニッコリと笑ってくれた。


「四宮さん。君、篤樹が高校時代弓道部だったことは知ってる? あ、ちなみに俺は部長だったんだけど」

「え? あ、はい。あの、私……」


『私も南高の卒業生で……』と続けようとする前に、静川先輩は自分の言葉の先を続けた。


「今でも時間がある時は、高校の道場借りて矢を射るんだ」

「そ、そうなんですか?」


それなら、週末、高校の弓道場に足を運べば、篤樹が的を射る姿を見れるかも知れない。
あの凛とした、空気さえも研ぎ澄ます篤樹の姿を。


想像するだけでドキドキする。
けれど、行きたい!と飛び付く前に、私は現実に直面した。


大人になった今、篤樹にとって神聖な場所で邪魔だと言われてしまう私が、弓道をする篤樹の姿を見に行くなんて。
そんなの、篤樹はきっといい顔をしないだろう。


「良かったら、一度見に来てごらん。その時は俺に連絡くれれば、案内してあげるから」


心の中で躊躇する私に気付かずに、静川先輩はそう言ってくれた。
私は曖昧に小さく頷くだけだった。
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