ドルチェ セグレート
「……まぁ、全部が全部、本当だなんて思って聞いちゃいないけど。でも、実際に最近、河村の様子がおかしいしな」
 
グッと奥歯を噛んで、緩みそうになった涙腺を堪える。
同時に、前方の諏訪さんが、振り向くことなくそう言った。

「確かに、ミスとかしましたけど……。だからって、なんでこんなことまで諏訪さんがするんですか」
 
ぼそぼそと口を尖らせて反論する。
 
自分のパンプスを見つめながら歩いていると、突然諏訪さんの足が視界に入って立ち止まった。
目をパチパチとさせ、諏訪さんの足元から上へと滑らせる。
近距離で見るスーツの背中は、なんだかいつもと違って感じた。

「オレ、きっと、あのときからお前が特別な存在だったんだよ」
「あの……とき?」
 
いつになく真面目な声色にドキリとした。
 
諏訪さんは、言い終わるとゆっくりと振り向く。
私を見る目は、その声と同様、真剣だ。

「今回のことでハッキリした。オレ、河村が好きなんだ」
 
いつもの軽い冗談の類じゃない。
はっきりとそれがわかるわけは、今、私たちの間を流れる空気が緊張感漂うものだから。
 
諏訪さんが……? 私を好き?
 
吃驚して、何がなんだかわからない。
あまりに突然すぎる告白に、未だに夢を見てるんじゃないかだなんて思ってしまう。

「オレとのこと、考えてみて」
 
軽いノリと笑顔がトレードマークの諏訪さんが、こんなに真剣な目をするなんて。
引き込まれるような、意思の強い瞳に圧倒される。
揺らぐことないその顔に、羨ましささえ覚えた。
 
それに引き換え私は、自分の気持ちを口にすることすらできず。
震える足でその場に立つのがやっとで、目を泳がせながら小さく答える。

「ちょ、ちょっと時間をください……」

< 115 / 150 >

この作品をシェア

pagetop