ドルチェ セグレート
「いや。キミ、結構いいセンスしてる。俺と好みが一緒だ」

少し自慢げに話す様は、冗談っぽい雰囲気もあったから全然高慢っぽく聞こえない。
イタズラッ子のような、少年みたいに目を細めて笑う顔に、終始見惚れてさえいた。

「んで、〝アントルメ〟も好き?」
「え? あ! はっ、はい! アンサンブルが気になって!」
「え! アンサンブル買えたの?!」
「あ、開店と同時にまずアントルメに行ったので……」

もしかして、この反応って……さっきがっかりしてたのは、アンサンブルがもう完売してたから、とか?

それに気が付いたら、自然と口から出ていた。

「あの、よかったら……どうぞ?」

自分が手にしているアントルメの袋を差し出す。
彼は目を大きくさせてから、あの大きな手のひらを私に見せ、首を横に振った。

「いや! それは悪いし。キミも楽しみにしてたんだろうから」
「あの、私は平日の休みも多いし、また来れますから! それに、昨日ガトー・オ・ショコラ食べたばかりで……満足はしてるんです」

それは本心。あのガトー・オ・ショコラで私の心は満たされた。

だからこそ、あのガトー・オ・ショコラを作ってくれただろう彼に、何かお返しがしたい思いになったのだ。
見知らぬ客が、突然『お返し』したいとか可笑しい話だと思われるだろうけど。

「あなたのケーキに救われたから。お礼……っていったら変かもしれませんけど、受け取ってください」

ズイッと半ば強引にケーキを彼の胸に押し付ける。

ここで断られても、もうこの手は後には引けない。どうか受け取って!


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