ドルチェ セグレート
強がりじゃなく、本当にそう思うから私は笑う。

けれど、チラッと視界に入った神宮司さんは、愛想笑いすらも浮かべずに真剣な瞳で私を見ていた。

「あ、笑ってもいいですよ? ゲームキャラオタクな彼氏にスイーツオタクの彼女。ある意味、似てたのかも」
 
静かな店内で、ふたりの間には私の笑い声だけが虚しく響くだけ。
顔は笑っていても、内心穏やかではなかった。
 
どうしよう。変な話をしちゃったから、神宮司さん困ってるのかも。
それとも、笑えないくらい痛い女に思われちゃった?
 
ぐるぐると『どうしよう』と『失敗した』が頭を渦巻く。
すると、向かい側でカチャッとスプーンをお皿に戻した音に、恐る恐る視線をあげた。

「傍から見れば、笑うと強く思えるけど。たまには自分を甘やかせよ?」
「……え?」
「――なんて、な。ごめん。今のは半分、自分に言ったんだ」
 
真面目な顔して言われたことに、自然と声が漏れていた。
神宮司さんは、フイッと視線を斜め下に落として僅かに口の端を上げる。

そして、微笑みの奥に、なにか憂いを含んだものを感じた。

「俺も、似たような感じな気がして。なんつーか、知ったようなこと言うけど……頑張りすぎてるんじゃねーの? キャパ以上になってても、無意識にさ」
 
〝似てる〟と言うだけあって、自己投影したように神宮司さんは苦笑いを浮かべる。

私は、こんな話を聞いても笑うことをしなかったことや、たった少しの時間しか共有していないのに的を射た言葉を投げかけられた気がして震撼させられた。

「あー、いや。俺なんかと一緒にしたら悪いな。大体、俺は他人(ひと)に言えるほどなんかしてるわけでもないし」
 
単純な言葉だったかもしれないけど、嘘みたいに心が軽くなった。
それと同時に、歪に笑う彼も、もしかしたら同じ言葉が欲しいのかな?と頭を過る。

「でも、俺の直感だけど、キミって仕事も同じように自分追い込むタイプなんじゃない? ストイックなのもいいけど、程々にな」
 
最後には何度か見たことのある穏やかな微笑で、彼はそう言った。

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