ドルチェ セグレート
店員さんに扉を開けてもらい、先に店内へと足を踏み入れる。
気になるのは、マドレーヌの在庫ではなくて、厨房(奥)だ。
「三種類ありますけど、おいくつくらい必要ですか?」
「あっ、えぇと……三つずつで」
「箱にお入れしますか?」
「は、はい。お願いします」
これだけ急いでやってきてマドレーヌが欲しいと言ったのだから、〝お遣い物〟としてお願いしなければ不自然だ。
即座にそう考え、その子には申し訳なくなりながらも、簡易包装までしてもらう。
これじゃあ、今日の最後のお客さんと一緒だな。
彼女に迷惑を掛けてると思って項垂れる。
すると、明るい声で「お待たせ致しました」と紙袋を渡された。
会計になると、チャンスがどんどんなくなっていく、と焦燥感に襲われる。
「三百円のお返しで」
「あのっ。今日、神宮司さんはっ……」
いつ切り出そうかとタイミングを見計らっていたのに、結局不自然なところで声を遮ってしまった。
またも驚いた目をして見つめられると、直視できなくて俯いた。
「なに?」
前方から聞こえた声は、神宮司さんのもの。
バッと顔を上げたはいいけど、きっと私、ひどい顔をしてる。
懇願するような、泣きそうになってしまっているような。
たったひと言だけだけど、また言葉を交わせたことに安堵する。
反対に、その後なにも言わない彼に、線を引かれてる気がしてしまって胸が苦しくなった。
互いに目を合わせたまま、少しの間、無言でいる。
躊躇いながらも、自分が今ここに立つ意味を思い出し、奮い立たせるように力強く自らの手を握った。
「あなたの時間を、ほんの少しでいいので私にください……!」
決死の覚悟で口にして、勢いよく頭を下げる。
「でも、まだ仕事が」
「終わるまで待ってます! 何時になっても大丈夫ですから」
素っ気なく返された言葉にめげてしまいそうだったけど、懸命に食らいつく。
頭は下げたまま。でも、なんとなく神宮司さんの視線を頭頂部に感じていた。
すると、「ふー」と少し長めの息を吐いた彼が、私の頭上にひとこと落とす。
「……わかった」
目を見開いて、ゆっくりと顔を上げていく。
正面に立つ神宮司さんは笑顔ではなかったものの、僅かに雰囲気が元の柔らかな感じに戻っていた。
気になるのは、マドレーヌの在庫ではなくて、厨房(奥)だ。
「三種類ありますけど、おいくつくらい必要ですか?」
「あっ、えぇと……三つずつで」
「箱にお入れしますか?」
「は、はい。お願いします」
これだけ急いでやってきてマドレーヌが欲しいと言ったのだから、〝お遣い物〟としてお願いしなければ不自然だ。
即座にそう考え、その子には申し訳なくなりながらも、簡易包装までしてもらう。
これじゃあ、今日の最後のお客さんと一緒だな。
彼女に迷惑を掛けてると思って項垂れる。
すると、明るい声で「お待たせ致しました」と紙袋を渡された。
会計になると、チャンスがどんどんなくなっていく、と焦燥感に襲われる。
「三百円のお返しで」
「あのっ。今日、神宮司さんはっ……」
いつ切り出そうかとタイミングを見計らっていたのに、結局不自然なところで声を遮ってしまった。
またも驚いた目をして見つめられると、直視できなくて俯いた。
「なに?」
前方から聞こえた声は、神宮司さんのもの。
バッと顔を上げたはいいけど、きっと私、ひどい顔をしてる。
懇願するような、泣きそうになってしまっているような。
たったひと言だけだけど、また言葉を交わせたことに安堵する。
反対に、その後なにも言わない彼に、線を引かれてる気がしてしまって胸が苦しくなった。
互いに目を合わせたまま、少しの間、無言でいる。
躊躇いながらも、自分が今ここに立つ意味を思い出し、奮い立たせるように力強く自らの手を握った。
「あなたの時間を、ほんの少しでいいので私にください……!」
決死の覚悟で口にして、勢いよく頭を下げる。
「でも、まだ仕事が」
「終わるまで待ってます! 何時になっても大丈夫ですから」
素っ気なく返された言葉にめげてしまいそうだったけど、懸命に食らいつく。
頭は下げたまま。でも、なんとなく神宮司さんの視線を頭頂部に感じていた。
すると、「ふー」と少し長めの息を吐いた彼が、私の頭上にひとこと落とす。
「……わかった」
目を見開いて、ゆっくりと顔を上げていく。
正面に立つ神宮司さんは笑顔ではなかったものの、僅かに雰囲気が元の柔らかな感じに戻っていた。