ドルチェ セグレート
そう志穂ちゃんは、あのデパート受付の彼女を示唆する。
私は連日、その女の子を偶然にも見かけたばかりだったのもあってドキリとした。
 
確かに一昨日の光景を思い出せば、一般のお客さんより、少し親しそうに話はしてたようにも思える。
でも、だからと言って、単純に恋人関係って決めるには早い気もする。
例えば、常連客だったら、多少の世間話はするだろうし、相手がお客さんならそりゃ笑顔にもなるだろうし。
 
都合のいい解釈を脳内で重ねていると、志穂ちゃんが声を潜めて言う。

「実は私、その前にもあの子、見たことあるんですよね」
「え? 別のところで……ってこと?」
「いいえ。慎吾さんのところで、ですよ」
 
ひそっと耳元でささやかれるように言われると、どこか胸がざわついた。
 
ランコントゥルのケーキは美味しいと思う。
だから、頻繁に足を運んだって不思議には思わない。

それなのに、どうにも気になってしまう。

あのデパートには、神宮司さんも定期的に出入りしてるはず。
アントルメが好きだって言ってたし、他にもスイーツがたくさん揃う場所だし。

もしかして、彼がデパートに足を運んでるうちに、ふたりは顔見知りになって……。
そして、本当にそういう関係になってたりして。でも、それなら、どうして私と……?

考えれば考えるほど嫌な想像しかできず、落ち込んでいく。

「ただのファンって割には、親しそうに話してましたし。案外、本当に彼女なのかも」
 
そこに、とどめの志穂ちゃんのひと言が胸に突き刺さり、完全に言葉を失った。

「……店内落ち着いてるし、今のうちに休憩とっちゃうね」
 
愛想笑いでそれを言うのがやっと。
志穂ちゃんの返事を待たず、私はふらりとバックヤードに向かった。
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