雪降る夜に教えてよ。

枯葉

*****



もうこれは……壮絶な……。

「……気分的な場違い」

「君はまったくどうしようもないな」

桐生さんは困ったように嘆息して、半ば強引に私の腕を取る。

「もう、ここまで来たんだから文句言わないの」

「ワルツとかタンゴとか踊れって言いませんよね?」

「それはいつの時代の話だよ」

「や。いつでしょう?」

さすがに舞踏会を夢見る年齢じゃないけれど、日本に普通に住んでいて、どこかの美術館みたいな、由緒正しき洋館にお目にかかる機会がそんなにあるとは思えない。

でも、桐生さんは声もなく笑っているだけだ。

『ユキ! 遅いじゃないか!』

中に入るとルイ氏の熱烈な歓迎を受けて、繋いでいた手が離れる。

『サナエも綺麗だ。女の子はいつもそうじゃないといけないね!』

私にも歓迎の抱擁が待っていて、目を白黒させていると、桐生さんは今度は声を上げて笑った。

『もう始まっているんだよ! 妻が君の事を見てみたいと言っていた』

ルイ氏が私を優しく見下ろすから、目を丸くする。

ルイさんの奥さんが私を見たがっているの?

『何故です?』

ルイ氏は何か言いかけて、突然クスクス笑いだした。

『そうだね。気の強い日本の女の子をみたいらしい』

えぇ!? 私そんなに気は強くないですよ!?

オロオロしている私をよそに、桐生さんとルイ氏は、またよくわからない言葉で話している。

言葉の感じからするとスペイン語か何かかな? ちょっとだけ、桐生さんの顔がしかめられた。

「あの?」

声をかけた私に、ルイ氏はなんでもないという風に笑い。桐生さんも何事もなかったように、私を会場にエスコートしてくれた。

目の前は気分的にはやっぱり舞踏会だった。

大勢の人が右往左往し、いくつかのグループを作っている。

その、なんていうの? フォーマルどころか女性はドレスって感じ? どちらかというと、私はかなり地味なほうだ。

もちろん、間違いなく私は目立ちたいわけじゃないから地味でいいんだけれど。
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