雪降る夜に教えてよ。
ルイ氏はかけられる声に片手で答えつつ、どんどん奥へ奥へと私たちを連れて行き、ほとんど会場を横切ると、まっすぐ窓際へ向かう。

綺麗な着物を着た女性が、長椅子に座っていた。

『妻のエリコだよ。サナエ』

ルイ氏の紹介に瞬きをする。

座っていたのは、どう考えても三十代後半……。

もしかすると四十代なのかもしれないけれど、綺麗な女性で、片やルイ氏は五十はとっくに過ぎているだろう。

や。偏見はいけない。世の中歳の差カップルなんてたくさんいる!

「お久しぶりです、叔母さん」

桐生さんの挨拶に、何故か打ちのめされそうになった。

えーと。まず整理しよう。

ルイ・アームストロング氏は『クラウン・ウェルズ』のグループ関連会社の最高責任者で、その奥様が日本人で、桐生さんの叔母さんだと……。

ぐるぐるしている私に、桐生さんが身をかがめた。

「うちの親父の妹なんだ」

ああ。なるほど! って言っても、全然あなたの親族を把握していないですけどね!

「親族多いんですね……」

「そうだね。だから失敗しなければ、意味もなく出世も早い」

苦笑する表情になんとも返事ができなくて困る。

えーと。それはルイさんとエリコさんの関係について?

それとも単なる感想?

とりあえず咳払いして誤魔化した。

「はじめまして。秋元早苗と申します」

「はじめまして。かわいらしいお嬢さんだこと」

奥さんはそう言って、長椅子の開いている位置をぽんぽんと軽く叩くから躊躇する。

桐生さんを見上げると、優しく背中を押された。

「ご一緒させてもらって? 僕はこれから挨拶まわりに行ってくるから。面白くないだろうし」

固有名詞が『俺』から『僕』になっているところからすると、お仕事モードだ。

頷いて、奥さんの隣に座らせてもらった。

お仕事モードなら、この間と一緒で私は蚊帳の外だろうし。

微笑む奥さんにどうしようか悩むけど。ちょっと戸惑っていたら、彼女は優しく私の手を叩いた。

「サナエさんは、どのような漢字をお書きになるの?」

漢字。漢字ですか?

「春夏秋冬の秋に元気の元、早いに苗と書いて早苗です」

「春のお生まれなの?」

「いいえ。年末なんですけれど」

冬真っ盛りの名前としては、少々おかしいけど。これが私につけられた名前だ。

「あら。ごめんなさい。てっきりそう思ったものだから」

「あ。いえ。よく言われることですから」
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