雪降る夜に教えてよ。
「私はね、恵む理解の子と書いて恵理子。頭が良くなるようにという願いがあったらしいわね」

そう言って、悪戯っぽく笑う。

「全然成績は良くなかったのだけれど」

どう返せって言うんだろう?

何か言うのも失礼だし、そんなことないですよ……と言うのも、よく知らない人に向かってはおかしい。

固まった私に、恵理子さんは笑った。

「貴女、とてもいいわ。お世辞を言わないところがとても素敵」

「……そういうのは苦手なので」

「そこがいいんじゃない」

彼女はそう言って微笑みを浮かべたまま、それでもどこか冷ややかな表情で会場を見渡す。

「なんというか、虚飾よね。みんな上辺を取り繕うために笑って、見栄や地位なんかを得るためにお世辞を言う。それこそが虚しい事だとは気づかずに」

恵理子さんはそう言って、また私の手をポンポンと軽く叩いた。

「世の中お金が全てではないのよ? お金は確かに生活を豊かにしてくれるけれど、それが全てになるのは虚しいわね?」

唐突な言葉に、小首を傾げる。

「何故、私にそんなお話を?」

「そうね。貴女が飾り気のない人だからかしら?」

飾り気か……自らを飾り付けることは、めったにしないのは確かかな。

でも「そうです」とはいいがたい。

「そんなことはないです。一応、私だって……今日は着飾っていますし」

もちろん猫も大いに被っている。

恵理子さんは一瞬目を丸くして、それから口元を押さえて笑った。

「外見の事ではないわ。内面的なものよ。貴女、さっき私とルイとを比べてびっくりしたままだったでしょう?」

あ。気付かれていましたか……。

「びっくりしても、表情には出さないのが、あそこにいる人たちよ。私は最高責任者の後妻。お嬢さん育ちでお金に目がくらんだ結婚と思われてるのね」

「魑魅魍魎の世界ですね」

「そうね。まさにその通り。どちらかと言うと百鬼夜行かしら」

黙って会場を見渡し、楽しげに笑う人たちを眺めた。

パッと見は本当に楽しそうに笑っているように見える。
でも、この中がそういう人たちの集まりなら、人はいつ本当に笑うんだろう?

笑顔の仮面をつけて、本心を隠す。
見栄や虚栄心や、そんな欲望を満たすか隠すために。

なんだかちょっと可哀想。

「彼も、そんな中で育ったんでしょうか?」

思わず口からこぼれて目を丸くする。
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