雪降る夜に教えてよ。
慌てて恵理子さんを振り返ると、優しそうな笑顔のままで私を見つめていた。

「そうね。社会に出てからは、隆幸はそうだったのではないかしら?」

静かにそう言って、それからふんわりと微笑んだ。

「幸いにも、私たちの家族は結束が固いから。よくある冷たい家族ではないのよ?」

不躾な質問になってしまった呟きは気にならなかったようだ。そのことにちょっとホッとする。

「すみません。変なことを言ってしまって」

「いいえ? 大切なことではないかしら? 貴女は隆幸がお好きなのでしょう?」

いつ、どこで……どこでばれましたか!?

「え。あの。そのぅ」

「女同士の話だわ。殿方には秘密よ」

ちゃめっけたっぷりに言われて、少し俯いた。

何気なさを装って、確信に迫って来るところは、さすが桐生さんの叔母さんだけはある。

「まだ、好きだとは、ハッキリ答えてないんです」

「あら。また何故? あの子が貴女を好きなのは一目で解ることなのに?」

それは解りすぎるほどに解る。

桐生さんは優しく、まるで包み込むように好きでいてくれている。

きっと私の負担にならないように、細心の注意を払って好きでいてくれているんだと思う。

「自分に自信がないですから」

「貴女みたいな美人さんが? 私もその半分でも美人だったら、ルイが出張に行っても、不安にならないと思うわよ?」

恵理子さんの言葉に優しさが溢れていて、肩の力を抜いた。

「綺麗ということは必ずしもいいことではありません」

「失礼を承知で聞くけれど……何かつらいことでも?」

眉をひそめた彼女に苦笑する。

何を想像しているのかわかるような気がするけれど、そんなことがおいそれと日常で想像できるような人生は、さすがに歩いてきていないです。

「桐生さんもそうですけれど、みんなそちらを心配しますね。別に男性に襲われた過去があるわけじゃないんですよ?」

あの人の場合、すぐに否定していたけれど。

でも、私のその言葉に、恵理子さんは明らかにホッとしたようだ。

「若いお嬢さんを手篭めにしようという人間は、それこそごまんといますからね。気をつけるに越したことはないでしょう」

それはそうだ。加藤くんの例があることだし。

「……では、あなたは何に傷つけられたの?」

何かに傷つけられたか、それは考えたくなくて、聞かれても答えを出さないようにしてきたこと。

それを初対面の人に言うのはどうかと思うけれど、だからこそ言えるのかもしれない。
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