雪降る夜に教えてよ。
見えたのは綾の狂気。そして桐生さんの困惑。

「悪い。西川、君が何を言っているのか解らない」

桐生さんは呟いて、隣の綾を見た。

「あの人はねぇ。うちの家族をバラバラにした人なのよ」

そう言って、綾は桐生さんにしなだれかかりながら、呆然としているその頬に手を触れる。

そうしながら、私を見つめている。

愉悦に酔った輝きで……。

「綾。やめなさい。人前で……」

父親の声なんて彼女には届いていないんだろう。

じっと冷たいままの視線は、ただ私に向いている。

……私は悪いことは何もしていない。

「出生からして卑しい子。さながら生まれながらの娼婦よね」

天使のような微笑みで、何も知らない顔をしながら毒を吐く。

違う。それは絶対に違う!

「違うわ!」

叫んだ私を、綾はせせら笑った。

「どれだけ西川家を貶めれば気が済むの? 養子でもらわれてきた貴女が、私の叔父と関係を持っていたのは知っているのよ! それで叔母は狂ったのよ!」

私は首を振る。だいたい、当時の私は……。

「違うわ」

「違わないわ! 叔父が貴女に向かって愛してるといったのは、私だって聞いていたんだから!」

そう言って笑った声は嘲りを含んでいる。

「貴女は昔から綺麗だったから。男を手玉にとってはいいようにしていたんでしょう?」

「そんなことしてない!」

「私の父に援助してもらっていたことはどうなの? あなたは父のお金で高校に行って、大学も出たのよね? 私が知らないとでも思っているの? 今だって現に、そのことについて話していたじゃない!」

西川さんが動いて、階段の手すりに手をかけた。

「綾。お前は何を言っている……そんなことは」

「お父様は黙っていて!!」

綾はそう言うと桐生さんに腕をかけ、楽しそうに笑う。

彼女の弧を描く唇に目を細めた……。

それがとても楽しそうに見えるけれど……あなたは何がそんなに楽しいの?

「今度は隆幸さん? やるわよね。大人しそうな顔をして、またお金持ちに言い寄ろうとしているわけ? そうよね。隆幸さんなら申し分ないものね?」

私は階段を上がりかけ、桐生さんを見る。

「私はそんなことしてない」

「援助って……?」

静かな疑問が響いた。

小さな声だったけれど、とても好きな声。

でもその言葉に、鳴り響いていた心臓の音が消えたような気がした。
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