雪降る夜に教えてよ。
顔を上げて、凍りついた。

驚きに見開かれた顔。きりっとした眉と、彼にとてもよく似たあどけなさを残した顔。

昔のような面影はないけれど、少し老け込んだ顔を見つけて震えた。

「西川さん?」

「あ……ああ。久しぶりだね。ここで何をしているんだ。君は」

すぐ渋面になった彼に、私も唇を引き締める。

「ご招待を受けたんです。西川さんもですか?」

「ああ。アームストロング氏と懇意にいている知人がいてね」

建前をきちんと説明するのは、この人は昔からだ。

思ったより気が楽になって、私は一人で立ち上がる。

「お元気でしたか?」

私の言葉に西川さんは少しきょとんとして、それから微かに首を振った。

「君からそんな言葉が聞けるとは思わなかった」

考えてみればその通りだ。だけど。

「私をどれだけ無礼な人間だと思っているんですか」

「いや。そんなことはないんだが……」

「昔から、西川さんは堅苦しくていらっしゃるから」

私の軽口に驚いたように、西川さんは目を見開いて、それから苦笑する。

「そう言われると、立場がないな。昔は、君にどう接していいか判らなかったから」

「もう……昔の話ですね」

静かに呟くと、西川さんは私の肩に手を置いた。もう“昔のことだ”言える位に、私は忘れられたのか、それは解らないけれど。

「そうだな。あれから十年経つ。時間というものは長いようで早いな」

十年。長いような、短いような年月。

「君は幸せに暮らしているかい?」

「はい。ちゃんと。援助もしていただきましたし……その節は、ありがとうございます」

「いや。僕たちは君の事を排除したんだ。見てはいけないものとして追いやって……」

そこまで彼が言ったとき……。

「あら、貴女。今度は私の父をたぶらかそうと言うわけなの?」

頭上からした声に、私はゆっくりと顔を上げた。

あまり聞きたくない声だった。よく通る、綺麗な声。

階段の先を見上げ、今度こそ凍りついた。長い、綺麗な黒髪。真っ赤な口紅。

東和女子一の美少女として君臨し、 高校の3年間、気に食わないことがあると、周りに当り散らした女王様。西川綾。

その隣には、呆然とした桐生さんがいた。

「隆幸。あれが貴方の好きな女なの? 男に言い寄って生きているような女が、貴方の好きな女だというの?」
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