雪降る夜に教えてよ。
佳奈と私は普通の高校生活を送り、何事もなく大学に進み、私は情報工学科で、佳奈は英文学科に進んだ。

諸々の費用をバイトしながら稼いでいたけれど、マンション契約だけは保証人が必要で、この時だけは恭平さんを頼った。

月年は流れ、私と佳奈は同じ会社に就職する。

私はSE部、佳奈はカスタマー。

だけど上司と反りが合わなくて、すぐにヘルプデスクに回された。

平凡な毎日が流れ、その中で、私たちは出会ったんだよね?

いつでも笑顔で受けがいい桐生さんは、いつも目が笑っていない。

それに気付いたのは、かなり最初の頃だったと思う。

それから、あの大雪の朝がきて……壊れかけの歯車が廻り出した。

優しい微笑みが好き。

悪戯っぽい笑顔が好き。

キス魔なところと、抱きつき魔なところはちょっと苦手。

暖かい眼差しが好き。

真っ直ぐな澄んだ目が好き。

加藤くんに殴られて、昔のことを思い出した時、私はあなたの声に闇から抜け出せた。

だから、その瞳を守って行きたかった。

微笑みが消えないように。

ただ愛しくて……。

だけれど、それはまだ怖くて、私は二の足を踏んだ。



素足の足に小石が食い込んで、現実を呼び覚ます。

馬鹿な事をしている。そうは思ってもあのサンダルは履いていたくなかった。

桐生さんに守られて、優しくしてもらったのを思い出すから。

ちゃんと笑えたのだろうか? きっと笑えているはず。

確かに笑顔は重宝する。笑うと気分をごまかせる。自分ですらも騙せるんだね。

あなたは何度、自分を騙してきたのかな?

出来れば、本当に笑える人と出会えればいいね。

月を眺めて立ち止まる。

恭介さん。

私はもう死を選ぶことはないけれど……でも、ちょっと疲れてきちゃったよ。

ちょっとだけ逃げ出してもいいかな?

ぼんやりとしていたら、スマホの着信音にまた現実に引き戻される。

【着信 桐生隆幸】

その表示を無視してまた歩き出したけれど、切れてはまた鳴る着信音。

それが煩わしくなって、メモリーを全件消すとスマホを道に投げ捨てた。

投げ捨てた拍子に小さな箱がポトリと落ちて、それを拾って眺める。

桐生さんにあげるはずだった誕生日のプレゼント。

初めて誰かのために選んだライター。

初めて、誰かに何かをしようと思った証。



ねぇ。おにいちゃん。

これでも私、一生懸命に考えたんだよ?

頑張って生きてきたんだよ?

寂しいよ。

苦しいよ。

温もりがほしいよ。

ねぇ。どうすればいいのかな?









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