雪降る夜に教えてよ。

立冬

*****



アレから数ヶ月。

いつもどおりのオフィスで、いつも通りの仕事。

思えばどちらも仕事中心な人間だから、必要最低限の会話さえすれば、業務に支障をきたす事はないのかも。

「秋元さん。ミーティングに行ってきます。戻りは十八時過ぎると思うから、上がれたら先に帰っていて」

「かしこまりました」

今はパソコンのモニターから顔を離さずに話すのが今の主流。

当たり前に……合わせ辛いし。

何も考えたくない時、忙しいのは救われる。

秋の一斉パソコンデータ調べなどやっていたから、お互いに以前のことは忘れて打ち込んだ。

ただ黙々と仕事をしていると思う。

「ねぇねぇ秋元ちゃん!」

急に声をかけられて、顔を上げると目を丸くした。

早良さんがパーテーションから身を乗り出している。

「早良さんストップ! 駄目です。進入禁止です」

「そんなことは解ってるよ!」

「解ってるなら身を乗り出さないで下さい」

「いいけど。あんた、異動願いを出したの?」

難しい顔をしている早良さんをぼんやりと見つめる。

えーと。誰もいない時に、こっそり室長のデスクに出したはずなのに……どうして早良さんが知っているんだろう?

「はい。昨日、杉本室長に」

「あんた、直属の上司に提出してないわけ?」

「そもそも、異動願は室長クラスに渡すものでしょう?」

微笑むと、早良さんは呆れたように眉を上げる。

「で。どこに移動したいって願い出たわけ?」

「カスタマー?」

さすがのヘルプデスクの姉御はぎょっとした。

「ちょっ……。なんで今更カスタマーなのよ! あそこは結婚組の集まりじゃない!」

「じきに結婚組の間違いでしょう?」

ニヤニヤして言うと、早良さんは頭を押さえて首を振る。

「そういや。佳奈ちゃん結婚するんだっけ?」

「そうそう。で、私が移動」

欠員ができたら補充する。それが私であっても問題はないはずだ。

「簡単に言うけどね。あんたの代わりのシス管補佐なんて難しいのよ!」

「早良さんに引き継げば楽勝ですって」

笑ながら言うと、呆れたような視線が返ってくる。
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