雪降る夜に教えてよ。
「あんた、性格変わった?」

「そんな訳ないでしょう。単によく話すようになっただけですよ」

「いやぁ。単にって言うか」

「ところで早良さん。私、仕事中なんですけど?」

ニッコリ言うと、早良さんはまだ何か言いたそうにしていたけれど、諦めて席に戻っていった。

面白いことに、私たちの変化は何故かオフィスには伝染していない。

それをいいことに、こっそりと異動願い届を出したわけなんだけど。

いつまでも平静でいられる訳はない。
これ以上ここにいても、日々辛さは募っていく。
まだ辛いと感じ取れている間に、自分が壊れてしまう前に逃げ出す。

それが私のいつものパターン。

そして早良さんたちが皆帰る頃合を見計らって、仕事を終了させる。

これで、今日中の仕事は完了。

毎日、何にも構わずに一心不乱に取り掛かれば、十二月の鬼のようなセキュリティ強化期間が来るまでとりあえず暇になる。

この時期ならば、と考えて、異動願い届を出したはいいんだけど。
あの早良さんが真っ先に知ることになるとは思ってもみなかったかも。

タイムカードを押して、誰もいないオフィスを見回してからコートを着る。

お金が全てではないけれど、暇を持て余すといろんなことを考える。

だから仕事をしてないときには、習い事に気を紛らわせた。

佳奈は事情を知ってか知らずか、黙認してくれている。

オフィスを出てからスマホをタップして、佳奈のメールに苦笑した。

【ちょっとさなちゃん。この頃付き合いわるいぞぅ! 結婚は来年の3月なんだから、ちょっと位はのもーよー】

絶対飲まない。飲んだら口が軽くなるもん。
返事を書くかどうか迷ったままホールに立っていると、エレベーターの到着音に顔を上げる。

扉が開いてぎょっとした。中に桐生さんがポケットに手を入れた体勢で、奥の壁に寄りかかっていて、ふっと目が合った。

降りるのかと思ってボタンを押していると、彼は首を振る。

「会議室の鍵を守衛室に返しに行くから……乗って」

どうやら鍵当番になったらしい。

仕方なく無言で乗り込んで、それからさりげなくスマホをバックにしまう。

実は、新しい番号を桐生さんに教えていない。
普通なら上司との連絡用に連絡先を伝えているものだけど、私はまだ買っていないからと教えなかった。

沈黙がエレベーター内を包み込む。

「今日は、何か用事がある?」

急に話し掛けられても、最近は動じることもない。
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