雪降る夜に教えてよ。
「オーナーって、そんなにお店に顔を出すものなんですか?」

「んー……。どうかな?」

裕さんは空を見て、それからまた私を見下ろした。

「よければ車で送りましょうか?」

「全然けっこうです」

「あれ。警戒心MAX?」

「ただ乗りたくないだけです」

裕さんは驚いたように私の顔をまじまじと見つめる。

「なんか秋元さん変わった? なんかきつくなったよ」

「別に、元からこうですから」

話しているのが煩わしくなってきて歩きだした。

「あ。秋元さん!」

声が追って来たので振り返り、片手を振りながら苦笑する。

「ひとりで帰れますから」

裕さんは降参というふうに手を上げて肩を竦めた。

「僕がだめなら隆幸を呼ぶ?」

「それもけっこうです」

「解った。じゃ、頑張って下さい」

そのままの勢いで、何故か駅とは反対方向に歩き続け……それからゆっくりと立ち止まると風の中を見渡す。

風雪に身を寄せ合い、手を繋いで歩いている人たち、コートの襟を立てて、背中を丸めて通り過ぎる人たち。
いろんな人たちが通り過ぎていくのを黙って見送った。

溜め息をついたら白い息が見えて、冷たくなった耳を押さえる。
寒さに耳元がガンガンしてきたかな。

それでも目の前では風に舞う雪。とても綺麗だと思った。

しばらくそれを眺めてから駅に向かうと、運転見合わせの表示と、たくさんの人で混雑している。

今から地下鉄に向かって……と、考えたところで溜め息をつく。

意地を張るのも疲れた。結局タクシーを捕まえて、雪で慎重な運転をしてくれた運転手さんに見送られながらマンションまで帰る。

十八時三十分には会社を出たから、1時間半近くも外を歩いていた計算かな。

痛む頭に薬を飲んで、コートを着たままでソファに座り込む。

それからローテーブルに置かれた教材サンプルを眺めて苦笑した。

心理学の教材は、資料請求だけで、実はまだ目も通していない。

私に恭介さんの仕事を真似ると言うことは無理だと思う。それだけの度量はない。解っていながら、つい目に入った。

駄目だ。これはやめよう。

資料をごみ箱に捨てて、違和感に顔をしかめる。

身体中の関節が痛い。
こういう時は、必ず熱が高かった。
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