雪降る夜に教えてよ。
「俺ね、たいがい女好きとか、遊んでるとか言われんだよね」

まぁ、その顔ですからね。声かけたらだいたいの人はついて行くんじゃないかな。

「まー……胡散臭いってのは仕方ないよね。本心で接してないんだから。強引なのは、そうでもしないと君に一生気付かれなさそうだし、その行動を意味不明に感じるのも納得だ」

……や。だから納得されても?

「俺は君が好きだよ?」

どの言葉にビクリと身を固くした私に気がついて、優しく頭に手を乗せられる。

「他人のミスを被って怒られる様な不器用なとこも、頼まれると嫌だと言えない人の良さも、毎日、花を買ってきては活けてるところも、普段、眼鏡に隠れてほとんど見えてない優しいところも」

ニヤッと笑ってから、唇に軽くキスをされた。

「ちょ……っ!」

「そういうウブなところもね。この間は、冗談半分で襲わないからって言った時の返事に、俺は挑戦されてるのかと思った」

この間……? 挑戦⁉

「男の車に乗るんだから、少しは心配しろ」

はい? え? いつの話?

「一番はじめに送った日のことだよ」

思い出して、開いていた口を閉じる。
なんだか桐生さんが複雑な表情をしていた時だ。

「あれは! そんな事じゃなく! 単にお堅いOLを誘う人はいないだろうと!」

「ああ。うん。気付いてるよ」

って。気づかれているわけなんですか?

「またそうやって驚く。俺は君の中でどれだけ浅はかな男だと思われているのかな?」

そんなには……。

いやでも、多少は軽い人なんだとは思っているけれど。

今までの言動や行動で“思慮深い人だ”と認識する人の方が珍しいと思う。

桐生さんは溜め息をついて、苦笑した。

「君はその外見で、俺が想像したよりも、ボロボロになったんだね」

静かな声に、思わず息を飲む。

彼は黙って私の顔を片手で覆い、少しの間、沈黙した。

「よければ泣いてもいいんだよ?」

泣けと言われて泣ける人は少ない。

でも優しい声に、自分の顔が歪むのが解る。

「……恐いです」

「何が……?」

「誰かを好きになるのは恐いんです」

「誰だって恐いよ。でも、好きな人に好きになってもらえるように……少なくともその努力をすることは、大切じゃないかな?」

その通りだと思う。

誰だって普通に人を好きになって、努力して、その好きになった人に受け止めてもらえれば、それはとても素敵なことだと思う。
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