1ページ過去編
ごはんがおいしい季節ですね

はんぶんこ

秋も終わりにさしかかるころ。

「食べ物がおいしい季節ですね」

私は近所ののらネコ、あくびさんと、ごはんを食べます。
きっちり半分こで。

…ひとりでお家で食べるよりおいしいので。

この季節限定ですが。

他の時期には、見かけても大抵寝ています。

なかなか人になつかないはずのあくびさん。

私だけにはすり寄ってきてくれるので、思わずごはんをあげてしまうんです。

この季節限定ですが。

もはや毎年恒例です。


あくびさんは、まるまる太ります。

冬を乗り切るために。


いつもなら。


今年、は…。

「なかなか太りませんね?」

食べる量も平年より少ないような…。

よくわからないイヤな予感がしました。



「あくびさーん…」

ごはんをもった私を待って、いつもあくびさんが座っている場所。

今日は、なぜか、いません。



次の日も。その次の日も。



そんなふうに一週間が経って、私は…ようやくあきらめました。

本当は、わかっていて。

ネコとヒトは違うのです。

5才のときから、高校生の今まで。

私にとってはそうでもない時間。

でもあくびさんにとっては、ほとんど全部の時間。



いなくなったあくびさんを見つけたのは、通学途中の空き地。

私がはじめてあくびさんと会った場所。

そこで、乱立するすすきの中、ぽつんと横たわっていました。

気づかなかったことを謝りながら、
その日、私はあくびさんと出会ってからはじめて泣いて、
あくびさんははじめて、私のごはんを、独り占めしました。



「ばいばい」
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