ハメごろし
「奥さま、お嬢様、さ、こちらへ」
リビングへ案内する。
ダイニングテーブルの上にはワインとシャンパンを用意してある。
この酒もアイツが買ったもの。
「ねえ、三峰さん、あなたもわざわざこんなことしなくていいのよ。プライベートまで主人にかまっていたんじゃ大変でしょう?」
探る物言いだ。やはり怪しんでいる。
「お気遣いありがとうございます奥さま。しかし、私には家族もおりまして、社長もいつもは定時で帰らせてくださるんです。本日は特別な日とかで。それならと私自らお願いしたんです」
「あら、そうだったの。あなたじゃなかったのね」
「私じゃない? とは?」
「いえ、いいのよこっちのこと。あなたお子さんは?」
「はい。一人おります。まだ小さいのが」
「そう。大変ね」
「恐れ入ります」
簡単だ。こいつはこの程度で私のことを怪しむのを止めた。
だから。浮気されるのよ。笑える。
「それでは、只今準備をして参りますのでしばらくお待ちを」
頭を下げてリビングを後にした。