めぐり逢えたのに
「え、あなたのお友だちも来てたの?」
「ほら、受け付けをしてた若い男がいただろう?気がつかなかった?」


 ビンゴ! 


 私は天にも昇る心地だった。

 「え、受け付けの人、あなたのお友達?あの、連絡先わからないかしら。」

 私の頬が紅潮して、少し興奮ぎみにしゃべったから、男は訝しく思ったに違いない。警戒するような顔になった。

 「万里花ちゃんが付き合うような相手じゃないよ。」

 私はまた失敗した、と一瞬で悟ったけど、今度はもう少し食い下がることができた。

 「私、受け付けのところにうっかり忘れ物をしちゃったの。彼が知ってるかどうか確認したくて。」
 「何だ、それだったら、ここの人に聞いてみればわかるんじゃない。」

 全く!何ですんなり教えてくれないのかしら。
 私はイライラしてきた。大体、私は小さいときから何でも思い通りになることが多かったので、こんな風にじらされるのに慣れていない。
 
 「もう、私が教えて、って言ってるんだから、黙って教えてくれればいいの!」
 
 語気荒く、不機嫌な声を出して、シャンパングラスをテーブルの上にドンと置くと、相手の人は驚いて顔色を変えた。
  
 「さすが……、戸川のマリカ様だ。」
 「何、それ。あなた、私にケンカ売ってるの?も一度名前教えてくれる?それともパパに直接聞いた方がいいのかしら。」
 
 男は、さらに顔を青くし、今度こそ慌てふためいた。普段から横柄な態度を取らないように気をつけてはいるが、いざという時の立場の使い方を私は熟知している。
 
 「万里花ちゃんには参るなあ…、じゃあ、名前とケータイの番号だけ渡しておくけど、お父さんには絶対内緒だよ。」
 
 そんなのわかってる。むしろ、私の方がお願いするぐらいだ。それでも男は警戒して、名前と番号を渡す時にもう一度「絶対だからね」と念を押した。
 
 名前と番号をもらった。これでとりあえずまた会えるチャンスができた。私は嬉しさと期待がないまぜになった気持ちを隠す事ができず、その男をテーブルに残したまま、パパを探しに行った。


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