めぐり逢えたのに
旅行から帰って来てから二ヶ月くらい経った頃、私が拓也とゆっくりとしていると、玄関の廊下の内ドアをトントンと叩く音が聞こえた。

佐々倉に違いない。
私が、ドアを開けると、佐々倉は少々照れくさそうな顔で、

「ちょっと飲まない?」

と誘って来た。

私が返答に困っていると、拓也が顔を出した。
拓也が来ていることに気がつかなかったのであろう、佐々倉は、ひどくきまりの悪そうな顔で、「こんばんは、お邪魔してもいいですか。」と挨拶をしてきた。

拓也も、佐々倉がこんな挨拶をする度に戸惑いを隠せないようだった。

ここは、私と佐々倉の居住地で、はっきり言えば、拓也は間男の立場になる。

それなのに、拓也はいつも自分ちに帰って来たような気持ちになって、態度にもそれが出ていたし、佐々倉も拓也がいる時は、いつもにも増して遠慮がちだった。

そうは言っても、拓也はまさかいやだ、とは断れず、しかし非常に身の置き所のない気まずい気持ちになるのだった。

私たちは、一杯飲みながらカウチに座ったが、手持ち無沙汰なので、何とはなしにテレビをつけると、いきなり拓也のコマーシャルが流れて来た。彼のトレードマークとでも言えそうな、暖かな微笑が画面いっぱいに広がった。


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