めぐり逢えたのに
何度となく美穂と飲みに行くうちに、美穂は佐々倉の「奥様」に不信感を抱いたらしいのだ。

「戸川のマリカ様」は戸川の従業員の間でも割と有名な話で、尾ひれがついて面白おかしくネタにされていたから、美穂も噂は知っていた。ところが、どうも佐々倉が語る奥様の話が「マリカ様」と重ならない。何となくおかしい……、と思ってた所に、佐々倉としおりが仲良く出かけていた所、唐沢美穂とばったり出くわした。

ホテルのバーでキスせんばかりに顔を近づけていた、というのが、美穂の疑惑を不動のものにしてしまったようだ。それから社員の間で、佐々倉が不倫をしている、という噂がまことしやかに流れた。

「唐沢くん、適当な噂を流さないでくれよ。」

佐々倉は、美穂を捕まえて懇願した。ただでさえ、居心地が良いとは言えない職場なのに、こんな噂が無責任に広がっていったのではたまったものではない。

「適当?」
「それに、君には関係のないことだろう。」

この言い方がまずかった。
美穂が気を悪くしたのは明らかで、それから美穂の子どもじみた嫌がらせが始まった。電話を取りつがない、故意に顧客のクレームを正しく伝えない、などである。



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