めぐり逢えたのに
私はびっくりして、体を前につんのめらせた。前のめりになりすぎて、危うく前のひとの頭にぶつかりそうになった。私は体勢を整え直すと、目を皿のようにしてじっくりとそのはじっこにいる人を観察した。

間違いない、

彼だ。

遠目だしメークもばっちりしているので、良く見なければ見逃してしまうが、99パーセント彼に違いない。

彼にせりふはあるのだろうか。ほぼほぼ確信が持てたが、声が聞きたかった。
それから、私はお芝居を食い入るように観た。でも、彼の一挙手一投足に注目していたから、ストーリーは全然頭に入って来なかった。

彼は結局ひとこと「あちらに向かったようですよ。」というセリフを発しただけだったけど、私はその声を聞いて身震いをした。はっきりと聞き取りやすく、涼しげな声を私が聞き間違えるはずがない。


彼は役者(のたまご)だったのか……。

私は、いろいろなことに合点がいった気がしていた。
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