めぐり逢えたのに
会場のきらめきをガラス越しに見ながら、薄暗い中庭を散策していたら、人気を感じたので、そちらの方に歩いて行くと、木に寄りかかってタバコをふかしている彼がいた。

「あ……」

私が思わず声をたてると、ちらりと私を一瞥し、タバコを落として足で火をもみ消してから私の方に向き直った。

「パーティー会場に戻った方がいいんじゃない。」
「あ、あなたは? パーティーには行かないの?」
私の言葉を聞くと、彼はふんと鼻で笑った。
「オレなんかが行けるようなパーティーじゃないよ。頼まれて受け付けのバイトをしただけ。」

そっけない態度の彼に、それ以上話を続ける事ができなくて、私は彼の隣りに黙ったままばかみたいに突っ立っているだけだった。
私が動かないのを見ると、彼は私をじろじろと上から下まで品定めするみたいに私を眺め回した。まるで裸にされていくようで、ひどく恥ずかしかったけれど、それでも私はそこから動こうとしなかった。

「ふーん。」

彼はニヤニヤしながらうなづくと、突然私を抱きしめた。
突然だったけれども、性急でもなかったし、乱暴でもなかった。むしろ優雅でさえあった。
かすかにたばこの匂いがして、ああ、男の人ってこんな匂いなんだ、って頭のどこかで思った。すごくドキドキしながら目をつむってすこしうっとりしていたら、彼は私の耳元でそっと囁いた。

「キスしてもいい? それともやっちゃう?」
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