めぐり逢えたのに
さらに数ヶ月時が経って、お正月を過ぎたあたりだっただろうか。

彼と別れてからもう少しで一年経とうかという頃、私は、彼が、五谷幸慶脚本・演出、丸の内劇場で上演される「64(シックスティ・フォー)」という舞台の主演を務めるというニュースを聞いた。

丸の内劇場での主演、しかも五谷の脚本・演出。とても大きな舞台だ。聞いた瞬間、背中がぞくぞくした。

何が悲しい、ってこの喜びを彼と分かち合えなかった事が悲しかった。

私は、彼が初めて少し大きな役を取った時のことを思い出した。
彼はすっかり有頂天になって私を抱きしめながら、このことを報告してくれた。彼が私のことを抱きしめたのは、最初にいきなり抱きしめられたのを含めても二回目(つまり、付き合い始めたてから初めて)だったから、ものすごくよく憶えている。

あの時、私は本当に幸せで、暖かい気持ちで満たされていた。
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