きみと、春が降るこの場所で
◇
4月。
桜前線が北に向かうスピードは例年よりも遅く、一般的に入学式が行われる時期を少し過ぎて、ようやく蕾が開き始めた。
新スタートを切って高校2年生になった俺は、相も変わらずに学校を抜け出して、河川敷で寝そべっていた。
まだ少し、寂しい桜の木を眺めて、頭に浮かべるのはパジャマ姿の女の子。
また会えると、確かにそう言った詞織を思い出しては、密かに頭を抱える。
俺だって、無事に2年生に進級出来たからには心機一転して少しは真面目にやろうと思っていたのに、あいつが気になって授業どころじゃない。
もしかしたら、またあのパジャマ姿で河川敷をさ迷っているのかもしれないと思うと気が気じゃなかった。
肌寒さに肩を縮こまらせて、自動販売機でホットのコーヒーでも買おうかと立ち上がる。
辺りを見渡しても、詞織の姿はない。
何を期待しているのか、そもそも期待と呼んでいいのかはわからないけれど、会えるとしたらこの場所以外にはない。
来るかもわからない詞織と、今日こそすれ違ってしまうかもしれない。
冷えた手のひらを膝に挟んで、芝生の上に座り直す。
寒い。
こんなに寒いのに外に出てくるようなバカがいてたまるかと思う反面、やっぱりどこか期待している。
「詞織」
呼んでみても、もちろん返事なんてない。
はーい、なんて声が飛んできた時には、俺は詞織をこっぴどく叱るだろう。
バカかって怒鳴ると、詞織は多分唇を尖らせてバカじゃないって抗議するんだ。