きみと、春が降るこの場所で


始業のチャイムと同時に教室を抜け出るのも、そろそろ限界だと悟り始めたのは、それから1週間後の事。


友人の心配を無下には出来ず、ついでに担任に目をつけられたせいもあって、日中に河川敷に来れるのは今日が最後だ。


満開の桜を見上げて、無償に寂しくなった。

明日は大雨になるらしい。咲いたばかりの桜は、散ってしまう。

地面に落ちてばら撒かれる花弁を見て、俺はきっと汚いと吐き捨てるはずだ。


桜は散り際が最も美しいというけれど、地に落ちてしまえば、泥に塗れてその色は潰される。


桜の絨毯でさえ、今日は綺麗だと思えるのに、明日の雨雫に濡れて惨めな姿になる。


何も、残らないんだ。


綺麗なままの、来年の桜を恋うから、いつもその景色を浮かべるんだろう。


それでもきっと、詞織は地に落ちて泥に塗れたひとつの花弁を、綺麗だと笑うんだ。


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