きみと、春が降るこの場所で
居ても立ってもいられなくなって、ガタンと椅子を引く大袈裟な音をシンとした教室に響かせる。
友人の制止も、女教師の金切り声もしっかりと耳に届いていたけれど、全部無視した。
「新島くん!待ちなさい!」
うるさい声。
頭の隅に、ほんの欠片だけ残っている詞織の声が、聞こえなくなるだろ。
階段を駆け下りたスピードのまま、土砂降りの雨の中に飛び出る。
上履きのまま出てきたせいで、泥に足が取られて、上手く前に進めない。
それでも、かなりの速さだと思う。
こんなに思い切り走ったのは、中学以来だ。
制服が雨水を吸ってずっしりと重くなっても、足が軽い。足だけは、軽い。
距離にしてみればかなり離れた場所にある河川敷へは、全力疾走でも20分はかかる。
1分でも1秒でもいい、早く、その場所へ行きたかった。
足と頭を動かす動力がどこから来ているものなのかすらわからない。
ただ、詞織がいる、かもしれない事。
それだけで、俺が駆ける理由になる。