きみと、春が降るこの場所で





年の瀬が近付いてきても、詞織には何の変化もない。

そりゃあ、外見で異常がわかるくらいになっていたら、俺じゃない誰かが気付くだろうけれど。


廊下ですれ違う看護師や、エレベーター付近のソファに集まる人達とも、だいぶ顔見知りになった。


何も、変わっていない。

このまま、年が明けて、詞織が退院出来るって事にはならないかな。


…まあ、ならないか。だって詞織のやつ、また寝てる。


ノックをしても返事がないから、勝手に部屋に入ると、詞織は案の定ベッドに丸まって寝息を立てていた。


「しーおり。来たぞ」


かじかむ指先で頬をつつく。

モチみたいだな、本当。全然痩せないからふっくらしてる。いい事なんだけれどな。


「詞織。来週さ、もしかしたら雪が降るかもしれないぞ」


「ゆき?」


寝起きの腫れぼったい瞼を押し上げて、舌足らずに言う詞織の目元に手のひらを当てる。


「つめたっ」


パチっといつも通りの二重になりそうな一重の目を開いて、飛び起きる。


「だって外めちゃくちゃ寒いもん」


「もんって…朔には似合わない」


「あっそ。でさ、来週末に雪が降るかもってニュースで観たぞ」


これは一大事だと思って、ホームルームの途中で抜け出してきたのに、肝心の詞織は寝てるんだもんな。


詞織には言ってないけれど、今もたまに授業をサボったりしているから、バレたら大目玉を食らうかもしれないのに。


「ほんとに降るの?絶対?」


「そりゃわかんねえな。降るっつって降らねえのがオチだろ」


「えぇ…なにそれ…」


俺だって降って欲しい。たかが雪、されど雪。

予報が雪でも実際には晴天って事は、よくある。


けれど今回は、仕方ねえな、降らなかったか、で諦められないんだ。


「降るといいね。もうすぐ、クリスマスだし」


「クリスマスだけ一時帰宅とか無理なのか?」


「うん。ほら、最近眠くてね。お父さんは来てくれるから、朔も一緒にお祝いしよう?」


眠いだけなら、別に家に帰ってもいいと思うんだが、そういうわけにもいかないんだろう。


「彰さんに連絡取っとくな。一緒に来るから」


「えへへ、うん。ありがとう朔」


どうせ家にいても、ラップをかけたケーキを兄貴が持ってくるだけだ。

彰さんと詞織と一緒にいる方がいい。


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