きみと、春が降るこの場所で
夢を見た気がする。
夢といっても、過去をそのまま映し出したような、まるで自分が映画のスクリーンの中にいる感じの、夢。
桜が咲いていた。俺はその下に立っていて、隣には詞織がいた。
詞織の腕には実際は一度も見た事のない針の跡が残っていたけれど、肌色に紛れて消えてしまいそうなほどに薄らと。
それから、俺も詞織も今より少し大人になっていた。
伸びた髪。ふっくらとした頬が顎にかけてシャープになった顔立ち。
笑うと浮かぶ笑窪が、何も変わらない。
「……おきて、さく」
腕を揺さぶられて、弱い力で叩かれる。
寝起きがあまりよくないから、眩しさに細めた目を睨んだと勘違いされたかもしれない。
「顔がこわいって」
「うるせ…起こせ」
無理な事を言っている自覚はある。寝惚けてはいるけれど意識はちゃんと戻ってきている。
肘に力を入れて起き上がろうとした時、脇の下に細い腕が入り込んでくる。
起こしてくれんのか。ならたまには甘えよう。
一気に脱力して、ベッドに全体重をかける。もちろんその一部は詞織にかかっているのだけれど。
「お、おも……朔太ってないのに、どこに肉がついてるの?」
「肉じゃねえよ。筋肉」
「嘘つき。朔が万年運動不足なの知ってるんだからね!」
マジで結構筋肉はあるんだがな。ひょろ長い兄貴と並べば一目瞭然だ。
唸りながら俺を起き上がらせようとする詞織が少し可哀想になってきて、半分は自力で起き上がる。
「…詞織だ」
「…?何言ってるの?」
まだ寝てるんでしょ、なんて言いながらぐしゃぐしゃに髪を掻き回す詞織の頭を引き寄せて胸に押し当てる。
肩がびくりと震えたけれど、何も言わずにしがみついてきた。
大丈夫、ここにいる。
未来の俺のそばにいる人が詞織であれば、これ以上ないくらい嬉しいけれど、それでも今の俺に大事なのは、目の前にいる詞織だ。
何も言わなかった。俺も詞織も。
こんな時間が1日に1度はある。
触れないと不安だとか、そんなのじゃないけれど、触れると安心するのは確かだ。
とはいえ、こんな所を看護師や彰さんに見つかったらどうなるんだろうな、と他人事のように考えていた。