小夜啼鳥が愛を詠う
「でも、野木さんが一生懸命だったから、冬夏先生もご尽力してくださったんじゃない?」

恐る恐るそう口を挟むと、春秋先生はうんうんとうなずいた。

「そうそう。桜子ちゃんの言うとおりやと思うで。野木ちゃんの不合格が知らされた日、親父さんも兄貴もお通夜やったもん。」

「……それも、合格発表より3日も早くわかってたそうですね。」
恨めしげに野木さんがぼやいた。

後から聞いたらしく野木さんは不満げだったけれど、春秋先生はさらりと言った。

「うん。もし合格してたなら早く教えてあげたかったんやけどね~。……まあ、でも、よかったよかった。結果オーライってことで。」

いいんだろうか……?

「桜子ちゃんは光くんと同じとこ受かったって?経済学部?パラダイス経済!……さすがやなあ。」

春秋先生にそんな風に言われ、気恥ずかしくなった。

「……いえ、そんな。私は、光くんがずっと勉強見てくれてたから、やっと受かったようなもので……。」
「謙遜謙遜。さくら女(じょ)は、ずっとA判定だったし。」

野木さんはそう言うけれど、やっぱり私は光くんのおかげだと思ってる。
だって光くんとのお勉強はすごくわかりやすくて楽しくて、本当に助かったんだもん。

「やー、たいしたもんだよ。すごいすごい。……でも2人とも神戸から通いだって?京都に住んだらいいのに。」
「……。」

だって、京都に引っ越してしまったら……薫くんに逢えないもん。

私の代わりに、野木さんが答えてくれた。
「春秋先生、野暮。小門兄は最愛のママ、さくら女は小門弟と離れて暮らすわけがない。」

「……なるほど。薫くん、か。4月から中2?……やりたい盛りやもんなあ。」

春秋先生の言葉に、ドキッとした。

そうなの!?

え……もう……発情期なの?
中学2年生って言っても、まだ13歳よ?

「なるほど。春秋先生は中学時代からお盛んだった、と。」

野木さんがそう突っ込むと、春秋先生はさらりと受け流した。

「心は一途な片想いだったけどね。鬱憤を外で晴らしてたなあ。若いって怖いねえ。」

……怖いって……いったい、何をやらかしてたんだろう……。

じとーっと見てると、春秋先生は肩をすくめた。

「昔の話だよ。今はおとなしいもんや。……それより、ほら。見えてきた。あれだ。」
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